企業動画をAIで作るとき、渡した写真は学習に使われる?AIツールの利用規約で確かめること
制作会社に渡した商品写真や発表前の資料が、AIの学習に使われることはあるのか。まず、制作会社がその写真をAIツールに入力するかどうかで変わります。入力する場合は、契約しているプランによって扱いが違います。6つのAIツールの利用規約の原文をもとに、制作会社に聞くことと、見積書に残す一行をまとめました。
「来月発表する新商品の写真を渡して、AIの学習に使われたりしないかな」
制作会社から「AIを使えば安く早く作れます」と提案されると、こんな心配が出てきますよね。
AIは、たくさんの写真や文章を手本として読み込ませて作られています。
ChatGPTのようなAIのサービスを、ここでは「AIツール」と呼びます。
「学習に使われる」とは、AIツールを提供している会社が、利用者の読み込ませた写真や文章も手本に加えて、自社のAIを良くすることです。
渡した写真や資料が学習に使われるかは、まず、制作会社がそれをAIツールに入力する(読み込ませる)かどうかで決まります。
入力するなら、制作会社がそのAIツールと契約しているプランによって変わります。
たとえば、動画を作るAI(動画生成AI)のRunwayは、個人向けの利用規約で、入力された写真や資料を学習に使うことがあるとしています。
一方で、法人向けの契約なら、学習には使わないとあります。
制作会社に「渡した写真や資料を、AIツールに入力しますか」と聞いてください。入力しないなら、学習に使われる心配はありません。
弊社は、企業の映像制作とWebマーケティングを手がけています。
6つのAIツールの利用規約をもとに、この記事で答えるのは次の4つです。
- 渡した写真や資料は、どんなときにAIの学習に使われるのか
- 制作会社に何を聞き、答えをどこに残せばいいのか
- AIで作った映像が、ほかの会社の映像と似てしまうことはないのか
- 制作会社が使うツールの名前を聞いたら、何を確かめればいいのか
調べて分かった事実と弊社の考えは、分けて書きます。
1. 学習に使われるかは、制作会社が契約しているプランで変わる
引用する利用規約は、断りがなければ2026年8月17日時点の記載です。
英語の原文には、日本語で説明を添えています。
Runwayの個人向けの利用規約には、無料のプランにも有料のプランにも当てはまる、次の条項があります。
You acknowledge that Inputs and Outputs may be used by the Company to train and improve its AI models, algorithms and related technology, products and services
利用者が入力した写真や資料など(Inputs)も、AIが作った映像など(Outputs)も、Runwayが学習に使うことがある、という条項です。
同じ条項は、こう続きます。
you hereby grant to the Company a non-exclusive, irrevocable, perpetual, worldwide, royalty-free, fully paid, transferable, sublicensable right and license to use any Inputs and Outputs
利用者(ここでは制作会社)が、入力したものとAIが作ったものを使う許可(学習に使うことも含む)を、Runwayに出すという内容です。
その許可は irrevocable(撤回できない)で、perpetual(期限がない)とされています。
制作会社が個人向けのプランで新商品の写真をRunwayに入力すると、その写真を使う許可をRunwayに出したことになり、あとから取り消せません。
登録(アカウント)を消す手続きはありますが、一度出した許可を取り消す方法は、利用規約に見当たりませんでした。
Runwayには、法人向けのEnterpriseという契約もあり、その規約は別です。
Runway may not use Customer Content as training data for the Services.
Enterpriseの契約では、利用者が入力したものを学習に使わないと定めています。
ChatGPTや、動画を作るAIのSoraを提供しているOpenAIも、個人向けと法人向けを分けて説明しています。
個人向けについては、入力した内容を学習に使うことがある、という書き方です。
When you use our services for individuals such as ChatGPT and Codex, we may use your content to train our models.
法人向けについては、既定では(設定を変えなければ)、入力した内容もAIが作ったものも学習に使わないとしています。
By default, we do not train on any inputs or outputs from our products for business users, including ChatGPT Business, ChatGPT Enterprise, and the API.
この英文の最後にある「API」は、ChatGPTの画面を開かずに、制作会社が使っている別のアプリからOpenAIのAIを呼び出して使う方法です。
APIで使う場合も、法人向けと同じく、既定では学習に使わないとしています。
では、制作会社には何を聞けばよいのでしょうか。
「そのツールは安全ですか」と聞くより、契約しているプランの名前を聞くほうが確かです。
Runwayなら「Enterpriseの契約ですか」。
OpenAIなら「どのプランで契約していますか。APIを使っていますか。学習についての設定を変えていませんか」と聞いてみてください。
最後の質問は、OpenAIの法人向けが「既定では」使わない、という書き方だからです。
2. 制作会社には3つ聞いて、答えを見積書に残す
相談している制作会社には、たとえば次のように聞いてみてください。
この案件でAIを使う予定はありますか。使う場合は、どの作業に使いますか。
使うAIツールは、法人向けのプランで契約していますか。
こちらから渡す写真や資料を、そのAIツールに入力することはありますか。
3つの中でいちばん大事なのは、最後の「入力することはありますか」です。
「入力しません」なら、学習の心配はありません。
「入力します」なら、そのツールのプランが法人向けかを確かめます。
答えに出てきたツールとプランの名前は、4章の表と照らし合わせてください。
答えてもらった内容は、見積書か契約書に残しましょう。
担当者が変わっても、約束した内容をあとから確かめられるようにするためです。
見積書の備考欄や発注書に、たとえば次のどちらかを一行入れてもらいます。
「支給素材」は、こちらから制作会社に渡す写真や資料のことです。
- 支給素材はAIツールに入力しない
- 入力する場合は、法人向けプランのツールに限る
弊社は、制作会社が、預かった写真や資料をどう扱うかまで説明できるかも、制作会社を選ぶ材料になると考えています。
写真や資料を国外の会社に送ってよいか、社内で確かめる
この記事で取り上げるAIツールの提供会社は、いずれも海外の会社です。
制作会社が写真や資料をAIツールに入力すると、そのデータは国外の会社に送られます。
次の2つは、自社で確かめておいてください。
- 人が写った写真や映像:顔が分かる写真や映像を国外の会社に送るには、個人情報として社内の手続きが要ることがあります。出演者が、写真や映像をAIツールに入力することにも同意しているか、自社の法務に確認してください
- 社内のルール:自社に、特定の国の会社が提供するサービスを仕事で使わないというルールはないでしょうか。制作会社がそのルールを知らずに使うと、そのサービスで作った部分を、あとで差し替えることになります
使えないサービスがあるなら、発注のときに制作会社へ伝えておくと、作り直しが少なく済みます。
3. AIで作った映像は、ほかの利用者の映像と似ることがある
ここからは、AIで作った映像そのものの話です。
Runwayは、AIで作った映像を自社のものだとは主張しない、と書いています。
The Company does not claim ownership of any of your Inputs or Outputs. Subject to your compliance with the Agreement, the Company does not restrict your commercial use of your Outputs.
商品の宣伝など、仕事で使うこと(商用利用)も制限しないとしています。
OpenAIにも、AIで作ったものは利用者(ここでは制作会社)のものと定めた条項があります。
ただ、Runwayの別の条項には、次の一文があります。
DUE TO THE NATURE OF ARTIFICIAL INTELLIGENCE AND THE SERVICES, OUTPUTS MAY NOT BE UNIQUE AND SIMILAR OUTPUTS MAY BE GENERATED FOR OTHER USERS.
AIの性質上、作った映像が、ほかの利用者が作った映像と似ることがある、という内容です。
「AIとサービスの性質上」とあるため、弊社は、法人向けのプランにしても、似た映像ができる可能性は変わらないと考えています。
背景に使う映像と、会社の印象を伝える写真では、似たときの困り方が違います。
- 会社案内の動画で、背景に流す街並みの映像:他社の動画で似た映像を見かけても、別の映像に差し替えれば済みます
- 採用サイトのいちばん上に置く写真:応募する人が、会社の印象をつかむための写真です。他社と似ていると、その会社らしさが伝わりません
弊社は、他社と似た映像でも困らない場面はAIで作り、似ていると困る場面は撮影することを勧めます。
4. 使うツールが決まったら、ツールごとに利用規約を確かめる
6つのツールのうち、RunwayとOpenAI(ChatGPT・Sora)は1章のとおりです。
残りの4つは次のとおりです(見出しの括弧の中は、提供している会社)。
制作会社が使う予定のツールのところだけ読んでください。
Higgsfield(Higgsfield AI)
Higgsfieldは、利用者が入力したものを、既定では学習の対象にしています。
ただし、Enterprise Agreementという法人契約なら、学習に使わず、外に出さない情報として扱うとしています。
Different terms apply to enterprise and business customers who use the Service under an Enterprise Agreement; under those agreements, Company does not use the customer’s content to train or improve its AI models, and that content is handled as confidential.
AIで作った映像については、Higgsfieldは自社のものだと主張しません。
そのうえで、制作会社は、作った映像の権利を発注した会社などに渡すことも、使う許可を出すこともできると書いています。
you may transfer or sublicense your rights in Outputs to your clients or other third parties
Higgsfieldは、公開していない素材を、利用者(ここでは制作会社)の同意なく自社の宣伝に使わないとも書いています。
制作会社が、発注元(こちら)のために作った公開前の映像も同じです。
聞くこと:Higgsfieldは、Enterprise Agreement(法人契約)で使っていますか。
Hailuo(開発元:MiniMax)
MiniMaxには、別のアプリからAIを呼び出して使う会社向けのサービス(開発者向け)があります。
その利用規約では、入力したものとAIで作った映像の権利は、MiniMaxのものにはならず、利用者の側に残るとしています。
you retain your ownership rights in Client input and generated content
一方で、MiniMaxが入力されたものや作った映像をどう使うかについては、次の記載があります。
We may use the input and generated content to provide, maintain, develop, and improve our Services
MiniMaxは「学習」という言葉を使わず、「サービスの改善に使う」と書いています。
学習にも使うのかは、この一文だけでは分かりません。
制作会社がHailuoをどう使うかによって、当てはまる利用条件も変わります。
- MiniMaxのサービスに、インターネットでつないで使う
- AIそのものを、制作会社のパソコンや社内のコンピューター(サーバー)に入れて使う
「MiniMax H3」は、Hailuoを作っているMiniMaxが、手元のパソコンなどで使う用に配っているAIの名前です。
2つ目の使い方では、このMiniMax H3の利用条件(ライセンス)が当てはまります。
2026年10月23日にその原文を開くと、次の2つが書かれていました。
- MiniMax H3も、それで作ったものも、EU・イギリス・韓国・アメリカでは使えない
- MiniMax H3を組み込んだ商用のアプリやサービスでは、その画面に「MiniMax H3」と目立つように表示する
制作会社が作る動画がこれに当たるか、完成した動画にも名前を入れる必要があるかは、この書き方からは分かりません。
制作会社がMiniMax H3を手元のパソコンやサーバーで使うなら、海外で動画を使う予定をこちらから伝え、名前の表示が要るかを説明してもらってください。
聞くこと:渡した素材を学習に使うか、MiniMaxに確かめてもらえますか。Hailuoはインターネットでつないで使っていますか。それとも、御社のパソコンやサーバーに入れて動かしていますか。
Adobe Firefly(Adobe)
Adobe Fireflyは、Adobeの画像や映像を作るAIです。
Adobeには、写真を加工するPhotoshopなど、Adobeのソフトを使うための契約(Creative Cloud)があります。
Adobeは、Creative Cloudの利用者の素材を、学習に使わないとしています。
No, we don’t train on any Creative Cloud subscribers’ personal content.
学習に使ったのは、Adobe Stock(Adobeの素材販売サービス)など、使う許可を得た素材と、著作権による制限のない素材(パブリックドメイン)だとしています。
The current Firefly generative AI models were trained on a dataset of licensed content, such as Adobe Stock, along with public domain content.
Adobeは、法人契約でなくても、利用者の素材を学習に使わないとしています。ここがRunway・OpenAI・Higgsfieldとの違いです。
「ベータ」と表示された機能は、試験提供中のものです。
商用利用については、ふつうの機能とベータの機能に分けて書いています。
For features without the beta label, you can use Firefly-generated outputs in your commercial projects.
For features that are in beta, you can use the Firefly-generated outputs for your commercial projects unless explicitly stated otherwise in the product.
ベータの機能も、Fireflyの画面に商用利用を制限する注意書きがなければ、商用利用できます。
聞くこと:今回使う機能について、商用利用を制限する記載はありませんか。
Kling(開発元:中国の快手)
Klingは、AIで作った映像の権利は利用者(ここでは制作会社)のものだとしています。
You own all intellectual property rights and other proprietary interests in and to the Content under applicable law… We do not claim ownership of the Content.
学習については、2026年10月23日に利用規約のページを開き直しました。
すると、入力されたものを、Klingの提供会社がAIの学習(train)を含む目的で使えると読める条項がありました。
有料のサービスには別の規約があり、そちらで扱いが変わるかは確かめられていません。
企業の動画でもう1つ確かめたいのは、Klingの名前やロゴを表示させる条項です。
You acknowledge that, without our written permission, when you use, distribute or disseminate the AI function to generate content, you shall label the Output interface with the brand and logo involved (including but not limited to “Kling AI”…)
Klingの提供会社から書面の許可を得ていなければ、作った映像にKlingの名前やロゴを表示するよう求めている、と読めます。
表示する所は「Output interface」と書かれていますが、動画の中なのか、動画を見せる画面なのかの説明はありません。
同じ条項では、タイトルなど目立つ所に表示する方法も挙げています。
完成した動画にKlingの名前やロゴが入ってもよいかは、発注の前に社内で確かめておいてください。
聞くこと:Klingの有料のサービスでは、入力した素材を学習に使わない約束になっていますか。Klingの表示を外す許可は、書面で取っていますか。
6つのツールを並べると
学習に使わないと明記しているのは、Adobe Fireflyと、Runway・OpenAI・Higgsfieldの法人向けの契約です。
表の「生成物」はAIで作った映像など、「法人契約の例外」は法人向けの契約なら学習に使わないという決まりのことです。
| ツール(提供会社) | 既定で学習に使うか | 法人契約の例外 |
|---|---|---|
| Runway(Runway AI) | 入力と生成物の両方が対象 | Enterprise規約で使わないと明記 |
| Sora・ChatGPT(OpenAI) | 個人向けは使う場合がある | 既定では使わないと明記 |
| Higgsfield(Higgsfield AI) | 対象になる | 使わない・機密扱いと明記 |
| Hailuo(MiniMax) | 「サービスの改善に使う」 | 記載を確認できず |
| Adobe Firefly(Adobe) | 使わないと明記 | 既定で使わない |
| Kling(快手) | 学習に使う許諾条項があるとの指摘あり | API有料版は再学習を禁止との指摘あり |
「記載を確認できず」は、法人契約の例外についての記述を見つけられなかったという意味です。
例外が無いと確かめたわけではありません。
Klingの欄の「との指摘あり」は、最初に書いたとき弊社が原文で確かめられなかったものです。
このうち「API有料版は再学習を禁止」に当たる記述は、2026年10月23日に開いた利用規約のページでは見つけられませんでした。
「再学習」が何を指すかも、弊社では確かめられていません。
表に無いツールの利用規約は、今回確かめていません。安全かどうかも判断していません。
5. 利用規約を引用するときは、確かめた日付も残しておく
Googleには、文章や画像、映像を作るAI(生成AI)について、追加で定めた利用規約があります。
英語の名前は「Generative AI Additional Terms of Service」です。
そのページを開くと、本文の前にこの注記が出ます。
We updated the Google Terms of Service on May 22, 2024 to cover AI-related topics. As of that date, these Generative AI Additional Terms of Service no longer apply
Googleの利用規約にAIに関する内容を加えたため、この追加規約は2024年5月22日から適用されなくなった、と説明しています。
ただし、この追加規約に触れた契約書をGoogleと交わしている会社は例外です。
社内資料に利用規約の文を貼っておいても、あとでその規約が適用されなくなっていることがあります。
引用するときは、確かめた日付を添えておくと、あとで確かめ直せます。
GoogleのVeoは、動画を作ることについての条項を見つけられていない
利用規約を読んだのは、Runway・OpenAI・Higgsfield・MiniMax・Adobe・Kling・Googleの7社です。
このうち、Googleの動画生成AI「Veo」については、Veoで動画を作るときだけに当てはまる条項を見つけられませんでした。
公開後の検証で、事実の誤りが5件見つかった
この記事は公開後に、弊社以外の人による検証を受け、事実の誤りが5件見つかりました。
たとえば次のような誤りで、該当する所は書き直しています。
- Runwayの学習についての条項は、無料・有料のどちらにも当てはまるのに、無料と有料で違う話として書いていた
- Runwayに、法人向けの契約では学習に使わないという条項があるのを見落としていた
- Adobeのベータの機能について、商用利用を認める後半の1文を落とし、意味を逆にしていた
5件とも、AIツールの利用規約を実際より厳しく見せる方向の誤りでした。
弊社は撮影の仕事が中心です。
AIツールが実際より不利に見えれば、AIをやめて撮影を選ぶ人が増えるかもしれず、5件の誤りは弊社に都合のよいものでした。
偶然として済ませず、弊社に都合のよい読み方をしていないか、今後も検証を通して確かめます。
公開後の検証のときには、次の3つのページを開けませんでした。
- Klingの利用規約
- MiniMaxの開発者向けの利用規約
- Adobeのよくある質問
2026年10月23日に開き直し、記事に載せたKlingの表示についての条項と、Adobeの英語の引用は、原文と同じ文だと確かめました。
MiniMaxの開発者向けサービスの利用規約は、MiniMax H3の利用条件とは別の文書です。
開発者向けサービスの利用規約は、今回もページの中身を表示できず、引用を原文と照らし合わせられていません。
この記事は法律上の助言ではありません。
個別の案件は、自社の法務に相談してください。
まとめ
確かめるのは、渡した写真や資料をAIツールに入力するかどうかと、入力する場合の契約プランです。
次の打ち合わせでは、「渡した写真や資料を、AIツールに入力しますか」「どのプランで契約していますか」と聞いてみてください。
答えは、見積書の備考欄に一行残してもらいましょう。
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